OVERSTAND

分かりすぎるくらいわかっているんだ



荒れ狂うような雨の日。時折締め切ったカーテンの隙間を白い閃光が刺す。はらわたを震わせる轟音が響く。

何をする気にもなれずひさびさにTVを付けた。

国の行く末について、政治的な観点から憂慮をすることを仕事にしている人たちが悲しいような怒っているような顔を作って議論をしていた。その方々によるとこの国は泥船のような状況らしい。

しばらく見ていると、結局これからの未来は若者にかかっているから頑張ってねぇ、みたいな結論で終了。次の瞬間には心機一転、キャスターが流行の菓子についての特集を楽しそうに読みあげていた。

この「それはそれとして」感。話題の切り替えのスピード感。見習っていきたい。

まあ確かに、どうなるかわからない未来を不安に思って眠れぬ夜を過ごすより目先のアイスを食べて幸せになるほうが生きやすい。

とはいえ、国の行く末みたいな壮大なものに対して憂えて訴えている姿はどこか格好がいいとも感じる。坂本龍馬みたいな。

坂本龍馬みたいなでっけえ男になりてぇような気がしてたんだよな~とつぶやく午後3時の6畳ひと間。そうとなればスーパーに売っている6個400円のアイスあずき最中をほおばって幸せになっている場合ではない、と思った。

決意表明として未返信だった親からのLINEに「仕事を辞めてどうするか考えてないけど坂本龍馬みたな心持ちで生きていきたいカモ?」と返信をした。

なんとか、壮大に憂いていきたいと思う。

とはいえ、自国の浮き沈みにたいしてはそこまで意見というか、熱がないことに気づいた。というのもさっきの討論番組によるとこの国は諸事情がスパゲティーのように絡んで問題の根本的解決が難しい状況らしい。ならいっそもう船であることを諦めて一度海に浮かぶ泥に還ってみてもいいんじゃないみたいな。適当な気持ち。

ただ自国の天候については、微妙な切迫感を感じていてる。

夏は暑すぎるから嫌いと言う。
冬は寒いすぎるから嫌いと言う。
好きな季節は間をとるように春と秋。

そんな人がどうも世の中には多いようだが、こういう人たちが将来生きづらくなるのではないか、と自分は憂いている。

春と秋を感じることがどんどん短くなっていってないだろうか。

というか自分の感覚的には冬ですら徐々に短くなっているような気がする。

それについては自分が狂ったのかと思い、インターネットで調べてみたところ必ずしも間違いではないらしい。

気候変動、温暖化、人工物による排熱と蓄熱。

どうやらこの3つが諸悪らしい。最終的に、日本は夏が季節の半分を占めて残り半分に春と秋と冬が詰め込まれるかもしれないとすら書かれていた。

夏が季節の半分て。

サーファーとサザンオールスターズしか得をしない世界がすぐそこまで来ている。

急に焦りが生まれ、排熱を減らすためにエアコンとか消した方がいいんだろうかと思いリモコンに触れたが、すぐやめた。焼け石に水感がすごい。大体消したら命にかかわる気がする。

目につく車にロケットランチャーを順に撃ち込んでいく。捕まってしまう。

B級妖怪に頼んで夜中まで煌々と輝く企業ビルを3分で平らにしてもらう。彼はもういない。

砂漠に水を撒くような努力と忍耐を一人一人があきらめた結果、今のような夏が形作られているのだろう。

もう逆に、暑い日々がどんどん増えていくことで得られるものを考えていった方がいい気がしてきた。

エアコン業界が絶対に沈まない船と化し、エアコン業者が医者や政治家と同等に先生と呼ばれるようになる。

1年の半分、アイスあずき最中がオンシーズンと化す。

外で余暇を過ごす人間が死に瀕する世界になることで、自宅での余暇がメインとなる。すると自宅での余暇として『DbD』が有力な選択肢の一つになりプレイヤー人口が増加する。数字しか見ていない運営が人口増加に胡坐をかく。今以上に様子がおかしい調整をゲームに施し、ゲームバランスがさらに崩れる。プレイヤー間でのゲーム体験の格差がマリアナ海溝並みに広がり、互いに憎しみ罵りあいながら太陽を避けるために同じゲームをする世界が生まれる。

こんなところだろうか。

まだまだ考えれば出てきそうだが、すでに自分の中ではろくなものは出てこない気がしてきている。ろくな未来にはなりそうにない。

一通り考えを巡らしたのち、手元のスマートフォンがぶるっと震えた。先の親へのメッセージの返信だった。

「今の歴史見解では坂本龍馬はただの商人で、憂国の志士みたいな教え方はもうされていないらしいヨ」

季節は減ったが世界は変わらず移り変わっていく。

ふと外が静かになっていることに気づいた。先ほどまで夏が激しい雨を降らせ遠雷をとどろかせていたはずだった。

立ち上がって窓を開けると、雨は上がり日は暮れかけ空は薄い紫へ。

やや潤んだ涼しい風が首を撫でる。

一日を耐えきった人々が郊外の灯に向かって歩いている。

濡れたアスファルトを擦るタイヤの音。

遠くで響く列車のレール音。

無形のノスタルジー。

「明日から涼しくなるだろうか?」

深く深呼吸をして、だまされないぞと自分はつぶやく。