何がはじける夏だ早く終われ

Image by Janis Rozenfelds from Unsplash 傘は最適解ではない 前にも言っ…


智者とはこういうことだ

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傘は最適解ではない

前にも言ったかもしれないが傘が嫌いだ。

まず形。彼らは開くとクラゲに似ている。

クラゲは好きだが頭の上に乗せる趣味はない。私がクラゲを頭の上にのせて歩いていたら、世の中の人は高確率で気が理性を失ったのだとみなすだろう。それなのに雨の日はクラゲを頭にのせても咎められないとはどういうことなのか。

それで、クラゲをのせた人間同士が往来するときはどうだろう。

すれ違う際にお互い傘の端がぶつからぬよう「あっあっすみません」みたいな感じになって、よりパーソナルスペースを広くとるよう意識せねばならない。傘の表面を伝う水のしずくがすれ違う人に飛び跳ねようものなら、いちゃもんをつけられることは覚悟せねばならない。江戸時代なら多分切り捨て御免に相違ない。

だいたい、傘は雨に対する回答になっているか? 足元いっぱい濡れるんですけど? 

それに畳んだら畳んだで非常に不格好なのが傘である。適当に畳もうものなら若干細めに書いた「8」みたいなフォルムになる。やけにスリムな達磨と言ってもいい。数字の8を持って歩くのは嫌だし、達磨を持って歩くのはもっと嫌だ。

それに苦労して綺麗に畳んでも気づいたら手元から消えている。私が社会に放流した傘は数十本をくだらない。高い傘を買えばどこかに置き去りにしてくることを防げるのではないかとも思ったが、全然そんなことはなくいつの間にか消えてしまう。

というように現状、傘に対する不満をためているのだけれど、今後成長していく見込みはあるのか? 私はないと思う。

小学生の自分が『ゲゲゲの鬼太郎』の漫画を読んでいた時に「からかさ小僧」なる妖怪が出てきた。江戸時代から絵草子などで語り継がれている古株の妖怪らしい。

目にした私は思わず言葉を失った。自分が通学時に使っている傘とほぼ形状が変わらなかったからだ。江戸時代から大きく変化がない。これはいけない。つまりもうこれ以上進化する余地がないとみなしてもいいだろう。その時、私は幼いながらに傘に期待することをやめた。

雨具に必要なもの

まあでも、至らない部分をあげつらってこき下ろすことは誰でもできる。真の智者というのは、改善案もセットで寄越してくるものだ。私は智者でありたいし、智者ってみんなから思われて四六時中ちやほやされたい。

私が思うに、傘は今の形状を捨てて体全体を包む方向にシフトすべきではないか。そうすれば置き忘れることもないし、下半身が濡れることもないし、クラゲ問題も解決する。

喜んだのもつかの間、すぐにこの考えも頓挫した。あまがっぱというものがすでにあることを思い出した。あまがっぱもよくない。まず名前がよくない。肛門に手をいれてきそうな名前。その時点で着ようという意欲を削ぐ。

逆に濡れてもいいと考えるのはどうか。「濡れるのが嫌だ」という価値観から傘が生まれたわけで、濡れても失うものがなければ問題は解決する。皆さん全裸で過ごされてはいかがですか。自分は嫌ですけども。肌が弱いから。酸性雨に何らかの刺激を受けそうだから。

どうしたものか。

もしかして傘の悪い部分を改善するという考え自体が間違っていたのかもしれない。もう傘を使う以上、傘の至らぬ点とは付き合っていかねばならないとして、つまりこちらで傘に付加価値みたいなのをつけてあげればいいのかもしれない。傘のダメな部分を補ってあまりある付加価値を。

智者とはこういうことだ

そう考えた時、名案が浮かんだ。

傘の表面に苔などを生やしてはいかがか。

地球環境を憂う声が大きい昨今、とりあえず緑を増やしておけば解決に向かいそうな雰囲気があることは世情に疎い自分でもわかる。湿った時期に使用が多い傘とも相性が良いだろう。

「え、それ新発売のヒノキゴケ? めちゃふさふさしててかわいい」

「いえいえ、あなたのホソバオキナゴケの傘もふかふかしてて素敵よ」

みたいな。

傘で雨を受けることで苔が育つため、「不便だけど雨も若干よけられるし地球のためにも傘をさすかあ」みたいな。

損をする存在がいないというのは良いことだ。智者というのはこういうことだ。

さて、傘にまつわる諸問題は解決を迎えたが一向に夕立がやまない。それどころか雨脚が強まり、道路は浅瀬のように水につかり頻繁に灰色の空を稲妻が走っている。電車も止まっているらしい。もう自分は30分も道路わきのよく知らないビルの陰に立ち尽くしている。

雨が強すぎてはっきりと見えないが道路の向こうにぼんやりとコンビニの光が見えた。

傘を買ってしまおうか、いや、でも苔が……。

へどもどしているうちに、道路を思いきり飛ばして走る車に水をかけられ、もうどうでもよくなり、「何が苔だ気持ち悪いんだよ」と呟き、結局雷雨の中を歩いて帰った34歳の夏。

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